あんなに広い未来でも

書きたいことを書きたいだけ。

推しが声優を目指した2

 前回ブログを書いてから、8カ月以上が過ぎた。
 その間にあったことはあまりにもめまぐるしく、でもきっとあの時の私は想像もしていなかった現実だ。
 あの時の私を抱きしめて、「この後まだ舞台に立つ彼を観る事ができるよ」と教えてあげたい。
 更に彼の大学での公演も観る事が出来るんだよと、そこで一言お話しさせていただくこともできるんだよ、と。
 きっと信じられないだろうな。
 あの後観た一つ一つの公演もやはり素晴らしく、今でも私の心の中で輝きながら存在している。

 

 最後に発表された舞台…大きな制作会社の、若手を集めた公演。
 オーディションで見いだされた原石の一つとしての彼の存在はやっぱりどうしようもないくらい素敵で。
 一つ一つが本当に大好きで。すべて書いていけばキリがない。
 相変わらず「ファン」レベルの枚数だと言ってしまえばそうなのだが、チケットを更に追加しながら三都市四か所の公演を彼らと一緒に駆け抜けた。

 名古屋での大千秋楽。
 平日の遠征は…と言っていた自分はあっさりと手のひらを返し、半休申請を叩きつけチケットを握りしめて新幹線に飛び乗った。
 多少の無理は喜んでできるくらい、本当に素敵な公演だった。

 一番覚えているのは、やはり後半の原石たちが歌うバラードの曲だ。
 下手側で歌う彼の歌声。表情。表現。
 何度も何度も聞いていたあの歌が、いつもより更に胸に押し迫ってきた。
 全てが叫んでいた。今の集大成がここなのだと。
 泣きそうででも最後まで涙を零さなかった彼を観ていて、最初に観たあの帽子を被った彼の千秋楽を思い出した。
 そうだ、大変におこがましい言い方をしてしまえば、あそこからこんなにも彼は成長した。
 もう泣き止めなかった彼は何処にも居ない。涙を堪えて明日へ向かっていく彼しかここにはいない。
 奇しくも隣に立つのはあの時から恐らく一番彼と一緒に舞台に立ってきた仲間だった。
 一瞬彼と向き合って目を見合わせて歌うタイミング、その一瞬で全ての思い出が走馬灯のように流れて私のスイッチが壊れた。

 あの曲中の彼の表情を観ていれば言われなくても分かっていた。
 これが最後なのだと。
 そのくらいあの時の表情は雄弁だった。
 堪えるような、耐えるような、どこか辛そうとまで言えるような表情ながらも、
 完全に決意して、前を向いている姿。
 厳しい未来を覚悟して、それでも目指すものを諦めない姿。
 本当に本当に大好きな彼の姿だった。
 あの姿を目の当たりにして、何を言うことができるのだろう。
 あぁ、行くんだ。
 行ってしまうんだ。
 そう理解せざるを得なかった。
 言葉にする代わりに音に出さず涙を零した。


 あの曲の後の暗転。
 メインテーマ曲に合わせてのダンスでは暗転中に見事に表情を感情を切り替えてきていた。笑みまで湛えていた。
 そうだ。最後に彼に湛えていて欲しいのはその不遜な笑みだ。
 最後にあの表情を観る事ができて本当に良かった。
 私も笑顔を伝染してもらいながら、心の底からそう思った。

 


 翌日。
 思ったよりも早く、その言葉が待っていた。
 いや、よく考えればワザとこのタイミングだったんだろうなと思う。
 翌日の夜に予定されていた生放送の映像配信より早く、
 ファンが未来に想いを馳せるより早く、現状の説明と宣言を彼は呟いた。


 判っているのにショックを受けるこの感情はなんなのかな、と本気で思う。
 寧ろ言葉にしてくれることで、ファンの想いと最大限真摯に向き合ってくれていると。
 彼もきっと同じような気持ちになったことがあるから、こんなに伝わるんだろうなと。
 こっちの勝手な期待や願いと向き合うことはきっと精神的にとても大変なことだろうに、そこから逃げずに受け止めてくれて有難いなと。
 そんな感情は嘘じゃないのに。そんな感情だって、私の中にちゃんとあるのに。

 夏、よりずっとずっと整理できた。
 青天の霹靂で受け止めたあの時とは違い、未来に対しての覚悟を持ってそのあとの公演は観に行くことができた。
 全部のイベントや演目を少なくとも1公演は観ているので、入れずに後悔したものも無い。
 私の中では最大限に観に行ったつもりだし、どれも楽しかったなぁ素敵だったなぁと私の中で大切に保管された思い出だ。

 本当はこれだけ時間も機会も貰ったんだから、今度こそ笑って送り出すべきなんだろうなって思ってる。
 「いってらっしゃい」って。「今度は声優としての君に会えるのを楽しみにしているね」って。
 彼自身がそのつもりだというのは、映像配信の構成からも絶対的に伝わってきていた。
 先輩声優さんのゲスト。声優としてのお仕事に関する話題ばかりの内容。殆ど触れない先日までの舞台。
 全開笑顔だったあの映像配信に出ていたのは役者としての彼じゃない。
 新人声優としての彼なんだと、全てがそう物語っていた。
 だからこそお昼の時点であの呟きをあげていたんだろうなと思う。
 あれがきっとメインを役者として活動していた彼の最後の言葉だった。
 多分、そう考えて間違いないと思う。


 応援。はしているつもりだ。
 彼が彼らしく未来に向かって歩いて行くのが何よりも好きだから。
 「表現者」としての彼を好きになっていればこんなにつらい気持ちにならなかったのかな。
 でも「役者」としての彼を最初に知ってしまったから、「役者」としての彼をずっと観ていたかったんだよ。
 今だけここだけだから言わせてくれ。
 ずっと「役者」な彼を板の上で観ていたかったんだよ。
 これがずっとずっと胸に燻ってる私の本音だ。匿名ブログ万歳。最大限に叫んでやる。
 「役者」としての彼の表情が、表現が、声が、眼が、指先が、動きが、息遣いが、大好きだったんだよ!
 バッカヤローー!もっともっと板の上で観ていたかったよーーーーー!!!
 声優のお仕事をやっていくのは勿論構わない。でも舞台にも立ちながらにして欲しかったんだよーー!

 でも一方で。舞台を捨ててでも声優の道を究めていきたいという彼の気持ちがあまりにも彼らしくて、そりゃあ本人なんだから当たり前なんだけど。
 その真摯な仕事への向き合い方があまりにも私の好きになった彼だから。
 あぁもう仕方がないなってのは判ってる。
 声優ってそんなに簡単なお仕事じゃないよね。ちゃんと極めて「声優」として一人前の存在になりたかった…なろうとしているんだろうな。
 フィールドが違えば表現方法も立ち位置も何もかも違うだろうから。
 あぁ、うん。そんな風に「声優」の仕事に向き合ってる姿は本当にやっぱり好きだなぁと思ってしまうから。
 きっと彼のファンなのは止められない。
 頑張って欲しいなって心から思ってる。

 出会わなければ良かった、なんて微塵も思ってない。
 彼のお芝居を観るのは本当に楽しかった。私にとってかけがえのない時間だった。
 こんな気持ちになる未来が判っていたとしても、私はあの最初の公演から彼を好きになっている自信がある。
 だから、良いんだ。
 つらくてもくるしくても、でも彼が大好きだよって。
 それが結局最大の私の感情だ。

 周りの友人たちにはちょっと凹んでる私を許してもらおう。
 失恋したんだとでも思っていてください。
 そうなんです彼は私が好きな舞台をフッて別の世界を愛してしまったんです。
 でも私は彼が好きな気持ちを変えられないので、いつかは声優の世界を愛し愛された彼のことを、丸ごと愛せるようになれると良いな。
 まずは彼の猛アタックを、今までより少しだけ離れた世界から見守ることから始めよう。
 いつかは想いが伝わると良いね、きっと君の熱意なら伝わるよ、と。結局彼のファンな私の感情の行きつく先はそこなんだろうなって思いながら。


 沢山の貰った「大好き」を胸に、君の新たな道の門出を心から祝して。 

推しが声優を目指した。

 あの発表から、既に半月以上経った。
 今更…という気持ちもあったが「文章にすると整理できますよ」というフォロワーさんからの勧めもあり、折角なので今の気持ちを私も書いてみることにした。
 過去を振り返るところから始めてしまったので、感覚的には独りよがりな自分への思い出話と備忘録だ。独り言と言い換えても良い。


 最初に言っておくが、私は所謂「ガッツ」ではない。どころか、絶対的なランクで言えば「ファン」レベルだろう。
 写真はあれば全種買うけど大体一枚だけ。公演回数はハマったものでさえ10回前後。日程と体力的なものを理由にして3回程度しか見ていないのもある。
 使いやすい言葉なので便宜上タイトルでは「推し」と表現したが、推しと呼ぶにはおこがましいレベルだというのは自覚しているし、ぶっちゃけて言えば同じくらいの気持ちで推している人は他にもいる。同率一位の中の一人だという感覚だ。だからこの先も読んでいただけると言うのなら、そのくらいの人間の世迷い事だと思って読んで欲しい。


 正直、これまで十年近く追い続けてきている別の推しと比べられるほど彼の演技をまだ見ていない。たった三役。三年間。
 あまりにも早かった。
 役者としての彼とサヨナラをする事になったのは。


 私が出会ったのも、恐らく多くの人と同じようにあのホールでだった。
 前シーズンの最終演目の最中、ある回の休憩中にトイレへ向かったときスタッフさんと歩く少年とすれ違ったのが最初のコンタクトだろう。
 少し年齢が上かもとは思ったがあの役にうってつけの大きな瞳にキツい視線。一目で「あの子が次の子だ」と思った。というより「あの子が次にあの役を担うなら、きっと私は次の代も好きになれると思う」と友人に呟いたのを覚えている。現役の子が大好きだったのに、驚くくらい拒否反応がなかった。それが第一印象だ。
 改めて発表されて、あの時の子かな?と友人に確認して。「きっとそうだと思うよ」の返事にお披露目をワクワクしながら待っていた。あまりに楽しみ過ぎて、結局仕事を早退してお披露目は全回に参加した。もちろんこれは先代の子が大好きだったのも大きな理由ではあったが。
 現れた彼はとても震えていて、それでもキツく前を見据えていた。真一文字に結んだその口元に、楽しみしかなかった。


 始まった新シーズン。周りの友人たちが前シーズンと一緒に卒業していく中、一人しがみついていた。そこにいた新しいそのキャラクターの性格に目を奪われた。
 これまでには有り得なかった態度。口調。その新しい解釈が楽しくて仕方がなかった。
 あぁこれは二年後を見据えた演出プランなんだと伝わってきた。
 この後どんな風にこのキャラクターは成長していくんだろう?どんな風に彼は命を吹き込んでいくんだろう?この先での演技が楽しみだった。


 東京公演から地方を回ってきての凱旋公演。幾つもの東京公演の時とは違う演出。表現。
 途中で解釈を変える役者はあまり好きではないといつも言っているけれど、彼の場合は平気だった。それがその時の全力だと伝わってきたから。迷っているんじゃなく、これが今の彼の答えなんだと伝わってきたから。
 きっと迷いがなかったわけじゃないだろう。最初の頃の風当たりの強さは一ファンである私ですら感じ取れたものだ。当事者である彼に伝わらなかったはずがない。
 これは私の想像でしかないけれど、それでも彼は自分が正しいと思った演技プランの中で生きているように見えた。言われた方が正しいと思えば変更して、自分が正しいと思えばそのままにして。変更も辞さない、自分の中での「正しい」を決して曲げることのない演技だった。その潔さが気持ち良かった。大好きだと思った。


 凱旋初日でアンコール曲を発表した時のドヤ顔。いたずらっ子のような、こちらの反応を楽しんでいるような、屈託のない笑顔。やられたと、笑顔を返した。
 千秋楽での、いつまでも泣き止めない姿。泣きたくないのにボロボロ泣いている姿。『板の上で泣く子より泣かない子が好き』と公言している私でも、顔をひっしで押さえつけたり、太ももを拳で叩く姿は胸に来た。泣きたくないと言うのが伝わってきたから。どれだけのものを飲み込んでそこに立っていたのか、少しだけ伝わってきた気がした。


 このご時世にも関わらず、SNSを一切持たなかった潔さも好きだった。更新できないのがわかっていたのか、オタクを最初は隠す予定だったのか、役のままであろうとしたからか。一番は役に集中したかったからな気もする。どれでも良い、あれは正解だったと今でも思う。

 唯一のファンとの繋がりであった公式ブログではキャラのままで映るから笑顔さえ見せない。その姿が好きだった。ストーリーが進むにつれて徐々に笑顔を見せてくれた、その計算さえも好きだった。


 思った通り、彼のキャラクターは少しずつ一匹狼からチームの中に溶け込んでいった。彼の動きからそれを一つ一つ読み解いていくのが好きだった。「この時はこんな風に考えているんだろうな」そんなことをいつも考えながら、どんな時でもちゃんと前後と感情が繋がった動きをしているのが好きだった。時々勝手な動きをしてみせるのもワクワクした。今度はどう表現するんだろう?と既に何度も見たストーリーを新鮮な気持ちで観れた。楽しかった。本当に、楽しかった。


 指先の先にまで力が入ったようなダンスが好きだった。全てを吸い込みそうな目の表情が好きだった。「目は口程に物を言う」は真実だとしみじみ思った。あまり笑わないキャラだったから特に、その表情で喜怒哀楽全部が伝わってくるのが素直に凄いと思った。普段とは違い試合中の不敵に笑う姿が好きだった。心から楽しそうに試合をする姿が好きだった。部分部分で言えばきりが無い。あの見せ方もこの口調もここであぁ表現するのも…彼の演技が本当に好きだった。

 二年間続けたキャラクターの最後の公演。彼の初演でのキャラクターの性格はここに繋がっていたんだと感動した。もともとそういう計算なんだろうなと思っていたけど、いざ見てみるとその現実に打ちのめされた。確かに繋がっている。彼のこの役としてのゴールはここなんだと絶対的に伝わってきた。このストーリー部分での卒業で良かった。その感動と共に、彼の役者としての未来に楽しみしかなかった。

 卒業発表とともに解禁されたSNS。今まで隠してきた「彼」の性格の一部がようやく見えるようになった。本当に今まで見えてなかったものがそこから見えてきて、よくもこれまで綺麗に隠してきたと感動した。好きなものを好きだと表現する潔さはキャラだけではなく本人もなんだなと愛おしくなった。繕うくらいなら隠す方向を選んていたのかなと、勝手にそこでも好感をあげた。
 SNS以外だと唯一本音が見え隠れしたのはトークイベントだけだった。他の人が言わないような爆弾発言はちょっとドキドキもしたけど、正直それが楽しみでイベントに行っていたところはあった。真っ直ぐで偽らない姿。陰ではホントにいっぱい怒られてただろうなとは思ったけど、曲げない不器用さは危うくも愛おしかった。彼のおかげで知らされるはずのなかった一面を知れたものもあったと思う。エライヒトの意向は大事にしていなかったかもだけど、ファンの事は大事にしている子だと思った。


 照れ隠しもあって言葉が過ぎたり悪かったりもするけど、彼の節目のSNSはどこまでも真摯だ。


 新しい舞台でも、それは変わらなかった。
 次の役は真っすぐで友達想いで家族想いの役だった。毎回彼の葛藤に泣かされた。
 あぁこんな表情も、表現もできるんだと思った。新しい彼の演技に魅了された。
 なんとしてもあるシーンの表情を近くで見たいと座席を選んで追加で買った公演もある。胸を掴む繊細な表現力。
 キラキラな満面の笑み。心の底から楽しかった。


 さらに次の舞台。帝劇にも立つような有名な方との共演にドキドキしつつも、蓋を開けたらそんな心配皆無だった。
 並んでものすごく楽しそうにキラキラ輝いている彼の全てから目が離せなかった。
 帰り道に「可愛い」しか呟いていなかった自分の語彙の無さを今でも覚えている。
 単に見た目の可愛さではない。一つ一つ計算されたあの役特有の可愛さが詰まっていた。
 計算された演技としての「可愛い」。どれだけでも見ていられると思った。


 次はどんな新しい世界を見せてもらえるのだろうと、次の仕事が楽しみで仕方がなかった。
 正直、次が発表されなかった数カ月ですら心配していなかった。
 彼が何も決まらないはずがないと、自信みたいなものまであった。



 だから完全に、あのSNSは青天の霹靂だった。



 最初に読んだとき、何が書いてあるのか文字が滑ってうまく理解ができなかった。
 次に読んだとき、あぁ彼はオタクだったとやっと少しだけ理解した。
 SNSから察せられるアニメやゲームのオタクである彼が、声優に憧れないはずがない。
 自分の好きな存在には憧れるものだと、むしろその想像がそういえば抜け落ちてたなとぼんやりと考えていた。


 彼のSNSでの発表は、本当にどこまでもこれまでの彼のイメージが壊れることのない彼だった。
 好きなものを好きだと叫んで、憧れだと叫んで、
 だからやっぱり自分はそこを目指したいのだと声高らかに宣言して、退路を断って、
 どこまでも潔くて彼らしいその姿を見せつけられて、「いってらっしゃい」以外に何が言えたのだろう?


 そこから丸一日散々自分にそれを言い聞かせた。
 むしろあれだけ真摯に気持ちを吐露されて、それをしてもらえたことがファンとして光栄だと。
 なにも言わずにふらりと居なくなられるよりよっぽど良いじゃないかと。
 彼の強い気持ちはわかるし、それは純粋に応援したいと。
 今の場所なら絶対にまだまだ仕事が来ただろうに、それを蹴って新しい道を行くのは格好良いじゃないかと。
 その気持ちは全く嘘じゃなかった。全部全部、本心だった。
 言い聞かせるように必死にそれを、自分のツイッターに書きなぐった。

 でも、最後彼のSNSが消える一時間前。
 彼の友人が一つの画像を自分のSNSにアップした。
 既に彼のSNSのスクショも取り、自分の気持ちも整理がついたと思っていたところに、それはストンと落ちてきた。
 「さみしい」
 SNSに文字として残すのではなく、画像としてあげた写真の中の片隅に。
 ひょっとしたら彼には届かないかもしれない。そんな気持ちさえ伝わってくるような場所に。
 それでもしっかりと書かれたその文字にスイッチを押されて、私はこの件で初めて堰を切ったように泣いた。


 あぁそうだ。発表を読んでからずっと心に燻ぶってたしこり。
 私はさみしかったんだ。
 彼に会えなくなるのが。…俳優としての彼に会えなくなるのが。滅茶苦茶寂しかった。辛かった。悲しかった。


 声優として彼が成功しないと思っていないわけじゃない。
 とんでもなく頑張り屋の彼の事だ。きっといつかアニメのエンドロールで名前を見る日が来ると信じている。
 それでも私は「俳優」としての彼をずっと見ていたかった。
 その願いが叶わないのだと知ったことが、とんでもなくただたださみしかった。


 これは私の勝手な思いだ。
 彼に決してそんな私の気持ちに応えて欲しいと思っているわけではない。
 ファンの気持ちを考えて自分の目指す道を諦めるなんてとんでもない。
 そんなのはそれこそ私の好きな彼の姿ではない。
 彼の演技からずっと伝わってきていた、不器用なくらいの生き方の真っ直ぐさ。
 それが今度は新しい世界を目指しているというのなら、それはもうどうしようもない。変えようがない。
 ファンからは「いってらっしゃい」と告げることしかできない。
 そんな彼が好きなんだ。仕方ない。
 それでもさみしいものはさみしいんだ。
 私の感情も、仕方がない。

 多分私は誰かに大声で「さみしいんだ!」と叫びたかったんだと思う。
 だってあんなに素敵な演技をする人だったんだよ。
 あんなに表情豊かな表現をする人だったんだよ。
 もう姿を見せての演技がないなんて寂し過ぎる。
 二次元の向こう側の演技も楽しみだけど、私は舞台上で観る、顔を身体を全身を使う演技の方が好きなんだ。
 可能性が0になった訳じゃないけど、一体次はいつ観れるのか、本当にあるのか…を考えると、寂しさが今も怒涛のようにあふれ出す。


 それでも寂しいながらも。彼がその道を目指すというのなら、私は楽しみに待つしかないんだと分かっている。
 彼という表現者を好きになったんだ。それはもう仕方ない。
 幸いあの世界には卒業生からも何人も成功した先駆者がいる。声優として成功しながらも帝劇に立っている卒業生さえ居る。
 あれ?だったらまだ帝劇ワンチャンあるんじゃね?
 なんて悪足掻きの感情も抱きつつ、
 結局のところ声優としての仕事を始めた彼を見たら「声優もアリかも」なんていう自分がいるのかもしれない。
 それはもう、その時になってみなくてはわからない。
 だからもう、今はこれしか言えないというのが正直な気持ちだ。

 「君が声優としてデビューする、未来で待ってる」
 
 そこで役者としての彼が良いんだと駄々を捏ねる私の亡霊とハグして、そこからの事はそこから決める。
 うぇーいまじか私は今の彼も好きなんだぜって、そう真っ直ぐに言える未来を信じて。